売ってない本

 自分でも何を考えていたのかよくわからないが翌日が月曜で今週は土曜日まで仕事があるというのに寝たのは29時過ぎていた。当然起きたのは8時。というか2度寝をしてしまい起きたら8時半だった。なんとかギリギリ間に合うレベルだったけれど、まさしく着の身着のままのような感じに会社に行くことになった。原因は小説を読んでいたからで、それだけ引きつける力がその小説にあるから。やっぱりすごい。

 眠かったので朦朧としたまま仕事に行ったが、結構な事件というか不具合というか、問題が発生したようでビックリするぐらいの張り詰めた空気が漂っていたので眠気はあっという間に覚めた。覚めたというか、全然関係ないのに怒られたというか……、まぁ目が覚めたことについてはよかった。そこからは延々と作業をしっぱなしでまさしく休む暇も無いほど。昼の20分ほど以外はほぼずっと作業をしていた。しかも私は今日残業できないはずだったのだが、何故かまた22時近くまで残業をするという不運というかなんというか、まぁ残業をしていた。
 残業すること自体は別に嫌ではない。誰かがやらなければならないならやるしかないし、それが自分がやらなければならないことなら尚更だ。ただ、前から決まっているノー残業デイの場合、自分でもある程度の予定は決めているわけで、それが反故になるのはやはりいい気分はしない。とは言え大抵は一人で何かをやる予定を立てているだけで、あまり他人は関係してこないから誰かの約束を破ることは滅多にないし、人と会うなどの場合はもっと強硬に帰ろうとするだろう。しかしそう考えるとまだ自分よりも他人を優先していることに気付く。私は常々自分を第一優先としてそれ以外の優先度は思いっきり下げようと考えている。つまり人との約束より自分への約束を優先しようと考えているのだけれど、家族に呼ばれれば実家には行くし、仕事があれば残ってしまうし、人と約束をすれば守ろうとしてしまうし、どうもまだ自分をあまり大切にしていないような気がする。

 多分ずっと昔からそうなのだろうけれど、若者には向こう見ずなところがある。逆に「今はもう無い」と言われそうな気もするけれどやっぱり向こう見ずというか、思慮が浅いというか考えるよりも先に動いたり話したりすることが多いよう思う。まだ20代の私が言うのもあれだけれど、やはり大学にいた期間よりも社会人として働いている期間が長くなると新人を見るたびにそういう事を思ったりもする。
 ネットでは新入社員は職場の飲み会にはなるべく出るようにした方がいい、という意見が出るとそういう事しか開催できないとか、おっさんと飲んだって面白くないとか役に立たないとか仕事が出来ない奴だとかそういう意見が大勢を占める。占めるというかまぁ単にそういう人は声が大きいだけだとは思うが。
 ただ、これだけは書いておいた方がいいと思うのは、その言葉は全て自分たちにそっくり当てはまるというか、会社の中の一番仕事をしていない人よりもよっぽど役に立たないのが新入社員だと言うことだ。会社の中の大多数を占める大人から見れば、新入社員なんて面倒くさいし役に立たないし仕事なんて全く出来ないし、何より新入社員と飲んだって別に面白くはない。なんせ誰もが通ってきた道なのだ。新入社員というポジションを。おっさんたちは新入社員の事なんてわかってないし、大半の人はわかろうともしない。ただ自分にも新入社員の頃があって、それと比べたりするぐらいだし、またお荷物がやってきたな、と思う程度だ。若者がおっさんと飲んだって面白くないと思っているのと同じようにおっさんだって若者と飲んだって面白くない、大半の人は。それでもやはり会社に新しい風が入ってくるのはいいことだし、若者との接点なんてそれほど無いし、何より酒はある程度人を饒舌にさせる。であればやはり飲み会という手段が一番だ。
 飲み会に行きたくないと思うのは自由だと思う。それを強制するのは間違っている。誰だって自分の時間は大切にするべきだし、何より私は飲み会にはほとんど参加しない。参加するのは歓迎会とお別れ会ぐらいだ。ただ行けば行っただけの価値はあるように思う。無いという人はその人が見つけられないだけで場には宝石がいくらでも転がっている。それはきっと拾えるのであれば拾っておいた方がいいものに違いない。ただやはり飲み会と言う場にたくさん落ちているというだけで、そうでない所にもやはりたくさん落ちているのだ。だから行きたくない人は行かずに別のタイミングで宝石を拾えばいい。その代わり飲み会と言う場で宝石を拾った者をうらやまない事だ。それをうらやむのは間違っている。
 ま、もっと砕けた言葉で言えば新人がある程度ちやほやされるのは新人の時だけなのでその間になるべく恩恵を得ておくべきだと思う、ということ。ベンチャー企業なら分からないけれど1000人2000人といる企業では先に出世をするのは単純な仕事のデキよりも人との繋がりをどれだけ持っているか、ということだろうし、持っているにこしたことはない。道ばたに100円が落ちていて、別に拾わなくてもいいけど拾ったらそれはそれで得だ、というのに似ているかもしれない。

 仕事が22時間際に終わったので急いで22時までやっている本屋に向かった。5巻まで読んでいる三国志の続きが気になったからだ。だがその本屋では売っていなかった。一縷の望みをかけて24時過ぎまでやっているTSUTAYAに赴いた。しかしそこでも売っていなかった。方や一冊もなく、もう片方は欲しかった6巻だけがなかったのだ。あと1時間早く動けていたらもっとあちこちの書店を探し回っただろう。そう考えると本当に悔しい。明日こそはなんとしても手に入れる、という静かな感情が身体の内に出来た。絶対に、明日こそ。